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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)2135号 判決

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意は、憲法違反を主張するけれども、その実質は原判決の事実誤認、審理不尽を主張するものであって、刑訴四〇五条の適法な上告の理由にあたらない。

弁護人長瀬誠之助の上告趣意一について。

恐喝のように、被告人の身分、経歴が、相手方に畏怖を生ぜしめる要素となる場合には、起訴状に、被告人の前科を記載しても、刑訴二五六条六項に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり所論違憲論はその前提を欠くものである。

同二、三について。

第一審裁判所が公判廷外の証人尋問において尋問事項書を被告人に送達することなしに証人を尋問し、また記録上特段の事情がうかがわれないのに恐喝の被害者等の証人をその裁判所において公判期日外で尋問したことは認められるが、右証人尋問期日には被告人も弁護人も立ち会っておりながら何らの異議を述べることなく尋問を終了し、また後に公判において右証人尋問調書の証拠調が施行せられた際にも被告人、弁護人が異議を述べた形迹のない本件においては、尋問事項書不送達の瑕疵及び特段の理由なしにその裁判所において公判期日外の証人尋問をした手続に対しては、これを違法として上訴することはできないものと解するのが相当である。

従って所論違憲論も亦その前提を欠くものといわなければならない。

また記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条一八一条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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